【ワンシーン解説】「GOLDEN BOY さすらいのお勉強野郎」1話

本稿で取り上げるのは江川達也原作北久保弘之監督のOVAGOLDEN BOY さすらいのお勉強野郎」である。本作は96年に制作された。全6巻。
東大法学部を中退した主人公、大江錦太郎がフリーターとして、毎回様々な職業を体験し、奮闘する様を描いている。
今回は第一話のひとつのシーンを取り上げる。シーンの効果としては、いわゆるギャグシーンにあたる、随一のシーンだ。

やくざに借金の返済をせびられる自転車屋の親父を尻目に、それを助けんとする主人公錦太郎のショットに見せかけて、直後何食わぬ顔で通りの角を曲がっていくというブラックユーモアの効いた一連のシーンである。

ここではまず、鬼のような形相でやくざを睨み付ける錦太郎のショットにはじまり、それに感づいたやくざと自転車屋の親父を映してみせることで、救いのヒーロー登場といった期待感を見ている視聴者にも煽らせる効果を醸している。



そのため、助けに行くのが当然という流れの効果を生み、次のカットで角を曲がって去ってしまう錦太郎のアクションを上手くつなげることで、視聴者にあっけにとられた印象を抱かせる、一種のおかしみを演出していると考えられる。






筆者は初見でこの一連のシーンに抱腹絶倒し、笑いをこらえる事ができなかったのを、まるで昨日のように思い出すことができる――それほどまでに今も印象に残っている名シーンだ。
錦太郎が門を曲がるタイミングの妙もこれ以上ないものに計算されている、そのカットで特に凝った照明効果などを使わず、極めて客観的な描写に留めていることで、ギャグとしての一種の空虚さの演出にも一役買っているといえるだろう。

筆者がいまも何度も見返している作品であり、その中でも秀逸のワンシーン・ワンショットである故に今回、自信をもっておすすめすることにした。