『ブレンパワードスパイラルブック』より面出明美インタビュー

―どういう経緯で参加されましたか?


隅沢(克之、脚本)さんは既に参加していて、1話の雛形を渡されたところから始まりました。
雛形はあくまで雛形、ということで、最後に勇がオルファンを脱出するところで終わるのは同じなんですが、自由に書いていいと。当初から、ロボットものではないものを目指すということでした。
でも、最初の企画書のままでは今までの作品と変わらないから、企画書のことは忘れるように、とも言われました。
家族、特に母親と子供が軸になっていることもあって、富野監督のほうから女性ライターを起用したいとの意向があったようです。


それで「女性っぽいところを出していいんですね」と念を押しました。だから富野監督から「このセリフはわからない」といわれても「女はわかりますから」といって押し切ったり(笑)。
ネリーのセリフは、特にわからないといわれました。アフレコの時、ネリーの声優さんから質問が出たときにも監督から「面出さんに聞いて。彼女ここで一番エライから」と振られたりしました(笑)。
自分の担当した回はアフレコに足を運んで、セリフの変更を確認したり、いわゆる「富野ゼリフ」を直したりもしました(笑)。


―ネリーの登場はとても印象的でした。


ネリーは、監督のプロットでは通りすがりの女のコのような感じでした。それだけではもったいないし、このあたりで勇の意識改革をしなくてはならないと考えたので、強さを持ったキャラクターに書きました。
それですごく濃い内容になってしまったんで、急遽2話分にすることになったんです。


彼女については、ララァ(『ガンダム』のキャラクター)にはならないように気をつけました。ネリーの強さを見て、勇は自分のブレンとの付き合い方に疑問を持ちます。
そこで、ネリーがネリー・ブレンと遊ぶシーンが必要になったんです。監督に「何をさせましょう?雪遊びですか」と聞いたら
「スケートさせよう」と返事が(笑)。踊るんですか?とかいいながら、シナリオを書いたら、フィルムで本当にスケートをやっていて驚きましたね。


舞台を北欧にしたのは、雪のシーンを描きたかったからです。海が中心だったそれまでと、違う雰囲気がほしかったんです。


―苦労したところは?


脚本全体の話をしますと、半年のシリーズなのに、脚本だけで1年ぐらいかかっています。特に、前半の試行錯誤の時期は、最初の打ち合わせや第1稿を前にした打ち合わせで、1話につきそれぞれ3時間ぐらいかかっていました。
スケジュールが3カ月遅れぐらいで推移して、16話なんかは完成まで1月半ぐらいかかっていたんではないでしょうか。


打ち合わせでは、富野監督のアイデアを、「それだとガンダムになります」とかいってみんなで止めたことも。最終的にあきらめられたのか、ライターにお任せが増えました。


前半はクインシィの性格が掴めなくて、みんな苦労していました。やがて、救わなくてはいけないことはわかっているわけですけど、いつもキリキリ怒ってばかりで。
それもあって11話で、彼女が海上で笑顔を見せるシーンを描いたんです。


あと“演説”は苦手でした。そもそもこちらもオルファンが何かよくわかっていないのに、それに対して登場人物が考えている仮説を描くというのは大変でした。
今の若い視聴者は、キャラクターのセリフをそのまま信じがちのようですけど、世の中、正しいことをいう人ばかりじゃないんで(笑)。
ああいうセリフは、みんな科学者が理論だけで考えた仮説ですから、間違っていることだってあるわけですよ。


―逆に印象深かったところは。


ネリーのエピソード以外だと、8話の勇と比瑪が静かに会話を交わすところです。ここは富野監督がいままで経験したことがないようなシーンだったらしく、けっこう驚かせたようです。
決めゼリフはあまりない作品で、普通の会話をしているところが気に入っています。14話のジョナサンと勇がののしり合うような人間くさいところも好きですね。


―オルファンなどの設定は、どのぐらい固まっていたのでしょうか?


ビー・プレートについては、当初からオルファンと対になる存在として設定はされていましたが、下手に異星の文化について語り始めると、全26話の中で中途半端になるので、具体的な登場はやめになりました。


バロンに関しては、登場することは決まっていましたが、正体は決まっていませんでした。
9話でジョナサンと再会したアノーアがどうするか、という話になったとき、このままノヴィス・ノアにはいないだろうということになって行方不明にさせたわけですが、そうすれば再登場させなければならない。
そんなわけで、彼女がバロンになったんです。


―『ブレン』とはどんな物語だったのでしょう?


いろんな要素が全部、親子関係に収斂しています。世界を救うには家族単位で救わないと(笑)、というお話なんですよ。
実は、最初はわざと親殺しの話にみえるようにつくってるんです。それで、実はそうではない、というふうに展開していくわけです。だから、勇も1話で撃てないんです。
これまでの富野キャラならきっと両親を撃っていますよ。


専門用語にまどわされて、普通の会話を聞き逃さなければ、わかりやすいお話だと思います。



ブレンパワード』において、面出明美さんの功績は大きいと思う
僕は富野作品で脚本家の名前を意識して見るということは、ほぼないのだが『ブレン』だけは違うのだ
初見時から思っていたが、面出脚本回は明らかに他の回と比べて作品に立ち込める“優しさ”の比重が多いように感じられた
“優しさ”は単純に“母性”と置き換えても良いのかもしれない、とにかく女性観が多分に内包されているように思った
それは富野節とのマッチングも非常に良く、いくつもの珠玉のエピソードを紡ぎだしていたように思う
僕は『ブレン』を見ていて泣いてしまうことがよくあるのだが、そういう回に限って面出さんの脚本であることが多かったりする

ブレンパワード・スパイラルブック (Gakken mook)

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